「キャンバスに集う~菊池恵楓園・金陽会絵画展」@国立ハンセン病資料館

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草津に旅行へ行った時にどうしても見たかったのがチャツボミゴケ公園。ふつうの植物は苔に限らず硫黄を忌避するけれども、チャツボミゴケはどういう進化をたどったのか硫黄がないところでは生きられない。細胞内に取り入れることはせず、細胞の間に重金属イオンがあることで生きていけるらしい。未だに詳細が分かっていない不思議な苔。

チャツボミゴケ公園の近くに「重監房資料館」という施設がある。ハンセン病に関する施設だということは知っていたのだけど、今回、国立ハンセン病資料館の解説を見たら、重監房というのはハンセン病者隔離施設から脱走したり重大な懲罰を受けたりする人が送られる場所で、「草津送り」になると生きて戻れる確率はかなり小さかったらしい。時間がなくてその時には立ち寄れなかったのだけど、アウシュヴィッツという遠いところでなくても差別によって隔離され殺された人々がいたということに衝撃を受けた。

さて、新秋津から歩いて20分くらいの場所にある国立ハンセン病資料館では、2019年7月末まで「キャンバスに集う~菊池恵楓園・金陽会絵画展」が開催されている。ハンセン病の後遺症によって身体が不自由になったにも関わらず筆を包帯に巻き付けたり、中には舌に絵具をとってそのままキャンバスに塗ったりして描かれたという。会場の中央には「菊池野」という雑誌が展示されている。入所者の絵が表紙になっているのだ。わたしはまずこちらを見て、長く続いている月刊誌があることに驚いた。入所者にとって表現することの意義はとても強いのだと感じる。

壁に目を移すと、障害があるとは思えないような絵ばかりだ。素朴なものもあるが、中原繁敏さんが間近な死を自覚しながら描かれた遺作「命」はすごかった。灰色の途中が折れた木から小さな芽生えが出、木のうろにはまだ生命の脈動が天を目指している。懲罰の施設と一匹の猫が夜にひっそりとたたずむ「鎖」もすごい。

そして最も驚かされたのが森繁美さんの「根子岳」。朝の光なのだろうか、鮮やかで柔らかいピンク色から青、緑と続いていく色遣いがとにかく美しくてしばらく呆然としてしまう。どうしても差別を前提に考えてしまうと、虐げられた世界が暗い色でにじり寄ってくるようなイメージをもってしまう。特に展示されていた方々はほとんどが故人で、絵の手法は昭和の頃に学んだ方が多い。そこに鮮やかな山が現れた。ハンディキャップを全く感じさせない。

若い頃に隔離され、断種までされていたハンセン病患者の家族が差別を受けていたということで、国に賠償金を認めたのは今年2019年の話。まだ何も終わっていないのだと思う。わたしたちは差別心をなくすことなどできず、知ることによってしか緩和させることはできない。ぜひまた訪れてみたいと思います、苔も豊富ですし。