映画「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」

 数年前に猫との暮らしが終わってから、アニメを見る回数が増えた。前に誰かが言っていたのだけど、人間そのものが写っていると疲れるような、現実の延長上にいるようで疲れるので、実写ではなくアニメを見たくなるとか。最近そんな感じなのかもしれない。当時は猫が現実から守っていてくれたんだろう。

去年見た中でもとびきり泣いて、小説を買ってやっぱり泣きじゃくった「青春ブタ野郎」シリーズ。「思春期症候群」という若い人が非現実的な症状を発症することで、主人公は女性たちに右往左往させられる話で、人によってはハーレムものとして忌避しそう。ただ、このストーリーはすごく自然で、苦しんでいる人たちが助け合う中にも、軽口が混じって軽妙さと心やすさが出ているところがすごくいいと思う。猫がたくさん出てくるのもいいね。

 アニメシリーズでは妹「かえで」が「花楓」になる『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』がとにかく泣ける。いじめや不登校の問題は自分でも少し体験したからか、他人事に思えない。いつだってどこだって制度になじめない人はいて、その人が安心して生活できて勉強を続けられるようにするのは大人全員の役目だと思う。それを兄妹で乗り切ろうと少しずつ努力し、パンダ見に行くところからは号泣しかないです。

さて、映画の方はネタバレありです。というか、小説版からほとんど逸脱していません。すごくよくできているというのが最初の感想であり、一方で時間が足りないというのも強く感じる。アニメであったような軽口や何気ない日常のコマが入りきらなくて、もう少し事件以外のことがあるとよかった。それはそれとしてすごくよくできていて、アニメの時の小説が映像化されるわくわくをずっと感じられました。

この話で一番好きなのが言葉を繋いでいくところ。高校生の翔子さんが中学生の咲太に良い言葉を伝え、咲太は妹を守れなかった自分を責め続けるのを止めることができた。その言葉があるから咲太らしさがあり、それを病床の翔子ちゃんに伝えることで翔子ちゃんもまた救われる。ここはぐっときます。

小説版では今ひとつぴんとこなかった事故のシーンも、衝撃音やテンポのいい展開で分かりやすかった。分かりやすかったからこそ、咲太が麻衣を亡くした哀しみもさらりと流れていってしまい、もう少しだけあの絶望感を見せてほしかったと思います。原作では理央がずっと咲太の側にいて、普段なら「青春ブタ野郎」と罵る理央が甲斐甲斐しく咲太の面倒をみて、それでも咲太は立ち直れない。咲太だけでなく、アイドルから女優になろうとしていた麻衣を亡くした哀しみに多くの人が沈んでいる。沈み込みが深いほど、後の翔子さんの力が救いの強さにつながってくる。原作では翔子さんが導きはするものの、咲太を優しく叱るシーンがあります。「冗談も通じないような咲太君で、麻衣さんを幸せにできるんですか?」冗談に紛らせながら大事なことをきっちり決めてきたから咲太を応援してきた、その冗談がちょっと足りなかったんじゃないかなーと。

でも、アニメ版を見た人なら一度は映画館で見るべきです。東京では3館でしかやってないけど、観客はけっこういました。わたしももう一度アニメ版を通しで見ようと思います。